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仙台高等裁判所 昭和22年(ナ)10号 判決

原告

伊藤義雄

外六名

被告

宮城縣選擧管理委員會

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負擔とする。

請求の趣旨

被告が昭和二十二年九月十二日附でした「昭和二十二年四月三十日に行われた宮城縣加美郡小野田町會議員選擧はこれを無効とする。但し當選者中その異動の生ずる虞のない佐々木虎之助、工藤富雄、早坂東治、小松新三郞、石山幸作、太田 渉、早坂能充、板垣長之丞、伊藤卯藏、内出寅治、富山覺、下山褜右衞門、菊地新藏、常陸憲治、枝垣丑之助、板垣不二雄、高島一郞、澁谷耕治はその當選を失はない。」との裁決を取消す。高橋甚之助の被告に對する訴願は相立たず、訴訟費用は被告の負擔とす。

事實(省略)

理由

昭和二十二年四月三十日宮城縣加美郡小野田町會議員選擧が行われ、原告等が何れも立候補し、右選擧の結果各候補者の得票、當選及び落選の別表の通りであつて、原告等は何れも當選者と決定されたことゝ、訴外高橋甚之助が同年五月十三日右選擧に關し同町選擧管理委員會に對し異議を申立て、同年九日十二日被告が右高橋の訴願に對し原告等主張の理由で、その主張の内容の裁決を爲すに至つた經過は、何れも當事者間に爭がない。

原告は、舊町村制の規定によれば、右異議申立は選擧の日から七日以内に爲されなければならなかつたのに、七日を經過して後に爲されたから却下せらるべきであつたと主張するけれども、右選擧の後、同年五月三日地方自治法が施行せられ、同法施行規程第七條その他右法規の趣旨から見ると、右異議申立については、右地方自治法の規定に從うべきものと解すべきである。而して右地方自治法の規定によれば、右異議は、選擧の効力に關するものは選擧の日から、又當選の効力に關するものは當選人の告示のあつた日から十四日の期間内に申立てればよいことになつており、前記高橋甚之助の異議はこの期間内に申立られたものであることが明かであるから、原告等の右主張は採用できない。而して、

(一)  成立に爭のない乙第一、二號證、證人高橋みき子、高橋すみゑ、畠山凉の各證言によれば、右選擧において訴外高橋みき子がその祖母である選擧人高橋けさのに代つて投票をしたことが認められ、證人吉岡正の證言中、右認定に反する部分は信用できない。

(二)、(三) (省略)

(四)  成立に爭のない乙第一、五、七、九號證、證人高橋正彌、高橋勉の各證言によれば、訴外高橋正彌は、昭和二十一年五月二十六日召集解除となつて、生家である小野田町の實兄高橋勉方に暫く滯溜していたが、同年十月十日宮城縣名取郡秋保村仙臺營林署奥新川事務所に復職、同所に赴任して、爾來同所に居住し、本件選擧當時には小野田町に住所をもたず、從つて選擧權が無かつたのに右選擧當日その投票をしたことが認められ、

(五)  (省略)

(六)  成立に爭のない乙第一、二十號證、證人庄司としよの證言によれば、訴外庄司としよ(舊性吉岡)は、昭和二十二年四月二十七日宮城縣加美郡宮崎村在住の庄司義治と結婚の式を擧げ、爾來同所に居住し、本件選擧當時小野田町における選擧權を失つていたのに拘らず、右選擧當日その投票をしたことが認められ、

(七)乃至(十一) (省略)

而して以上認定の事實を覆すに足る證據はない。よつて右選擧においては前記合計十一票の無効投票のあつたことが明かであると共に、この十一票の全部又は一部が、當初から無効投票として除外され、別表記載の各候補者の得票中に算入されなかつたことを認めるべき證據はない。

原告等は、右無効投票はその數を各當選者の得票數から控除して順次、次點者の得票數と比較し、次點者の得票よりも少數となつたものの當選を無効とする被告の採用した方法によるべきではなく、(イ) 當選者各自の得票から一票づつを減じ、之によつて當選の異動を生ずるや否やを決定するか、(ロ) 當選者の中百十四票を得た唯野仁、山口一四、佐々木佐七から右一票宛を差引き當選を失わせ、殘八票を百二十二票を得た内海文吉から減じて、同人をも當選を失わせる方法に從うべきであるというけれども、數學上からいえば、原告の主張する二つの方法も、被告の採用した方法も、その確率の大さは等しいと考えられる。而してそのいずれの方法を本件のような場合に採用すべきかは、一に公平の原則と選擧人の意思とを考え、しかる後に、費用と勞力の經濟をはかつて決する外はない。而してこれ等の見地に立つて考えると、結局被告の採用した方法によるのが最も合理的であると考えられる。

よつて前記無効の十一票を別表記載の各當選人の得票數から控除し、順次最高點落選者の得票數と比較すると、今藤藏、齊藤幸一郞、佐々木長藏、伊藤義雄、内海文治、佐々木佐七、山口一四、唯野仁、以上八名の得票數が最高點落選者高橋長三郞の得票數より少數となるから、同人等の當選は前記十一票の無効投票のため、異動を生ずる虞があるものと認められる。從つて、同人等の當選はこれを無効とすべきである。

尤も元來投票の無効を理由としてなす爭訟は、當選の効力に關する爭訟であつて、地方自治法第六十七條(同町村制第三十二條)の適用はないのに拘らず、被告が高橋甚之助の投票の無効を主張していた訴願を選擧の効力に關する爭訟として取扱い、前認定のような趣旨の裁定をしたことは、その當を得ないものといわねばならない。單に右今藤藏外七名の當選無効を宣告すれば事足りるのであつたのである。しかし、その裁定においては、個々の當選人の當選の効力を判斷し、實際上の結果としては當裁判所が無効と判斷した當選人の當選丈を失はせることとなつているのであるから、右裁定はその結果において、右八名の當選無効を宣言したことと實質的に異るところはないので、特に之を取消す必要はない。從つて、原告等の本訴請求は理由がないから之を棄却すべく、訴訟費用の負擔につき、民事訴訟法第八十九條、第九十六條を適用して、主文の通り判決する。

(谷本 村木 松尾)

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